東京科学大学博物館の概要
はじめに
2024年10月の東京工業大学と東京医科歯科大学の統合により、あらたに東京科学大学が誕生しました。それに伴い、2011年に設立された東京工業大学博物館は「東京科学大学博物館」へと改組され、新たに二つの大学の歴史と貴重な文化遺産を守り、伝える役割を担うことになりました。今後は東京科学大学博物館として、両大学の歴史に関わる資料の蒐集・調査研究に取り組み、本学の誕生に至る歩みとその歴史的な意義を「展示」という形でお伝えするよう努めて参ります。
博物館本館(東京工業大学百年記念館)の沿革
博物館本館、すなわち東京工業大学百年記念館は、本学が創立100周年を迎えた1981(昭和56)年、「東京工業大学創立百年記念事業」の一環として計画され、1987年11月に開館して以来、東工大のミュージアム機能として中心的な役割を果たしてきました。創立百年記念事業に当たっては、本学の同窓会である社団法人蔵前工業会を母体とする募金会(土光敏夫会長)が結成されました。以下は、当時の募金趣意書に記された記念館設立の目的(抜粋)です。
「東京工業大学百年の歴史は、正にわが国工業の発展を支えた科学・技術の教育・研究の歴史そのものであり、(中略)その教育・研究に用いられた貴重な器材や文書・記録が数多く集積されています。これを体系的に整理し展示することは、たんに東京工業大学にとってだけでなく我が国全体の科学・技術の教育・研究の発展のため先人の果たした業績を明確にする意義をもつものであり、更にこれを踏まえて今後の一層の発展を図るための貴重な礎石となると考えます。そこでこの記念すべき創立百年の時期に当たり、正に『科学・技術の教育・研究百年』の業績の展示・保存を中心とする『百年記念館』を建設し、そこに現在における科学・技術の最先端の所産をも併せて展示して、東京工業大学の遠き将来に向けての一層の発展のための一大モニュメントとする計画であります。」(東京工業大学創立百年記念事業資金募金趣意書より)
上記の趣意書にあるように、百年記念館は「科学・技術に関わる業績の保存と展示」を中心とした博物館的な建物としてその計画がスタートしました。百年記念館専門委員会(委員長・平井聖教授)は、その具体像に対して「人からの伝承」と「物からの伝承」という2本の柱を核とするコンセプトを設定しています。つまり、先端の科学技術に取り組む態度や係わり方について、実社会にて様々な役割を果たされている先輩方と直接対話して学ぶこと〈人からの伝承〉と、創出された技術や研究成果にある背景を具体的資料を通じ学ぶこと〈物からの伝承〉ができる場の実現が目的でした。このコンセプトをもって百年記念館が誕生し、博物館へと繋がる運営の礎となりました。
建物の意匠設計には篠原一男教授が当たり、1986年10月着工、1年後の1987年9月に竣工しました。その後、竣工披露式典、募金会より東京工業大学への建物の寄附を経て、同年11月に開館を迎えました。また、展示に関しては百年記念館専門委員会の中に展示部会(主査・道家達將教授)が設けられ、学内よりの収蔵品の収集、展示計画が作成され、同11月16日から開館記念特別展示が開催されました。
百年記念館の開館以後、 20年余りの間には、地階収蔵庫の改装による特別展示室の拡張や2階の中小会議室の展示室化などが実施され、また特定のテーマに基づく企画展示会(特別展示)が年数回開催されるなど、博物館としての機能・活動の充実が図られてきました。そして、2011(平成23)年4月1日に東京工業大学博物館(博物館相当施設)として開館してからは、「東工大らしさ」を集約し、学内外へ発信する拠点として、近接する東工大蔵前会館(TTF)や2011年7月にオープンした新図書館と共に、〈人〉や〈物〉からの伝承・交流が日常的に行われる「文化・科学技術に関する学術交流の中心拠点」として現在に至っています。